スワヴェク・ヤスクーケ特集
スワヴェク・ヤスクーケ特集/笠井 隆

 ポーランドからまたまた新進気鋭の若手ピアニストが登場した。本国でも、大きく取り上げられたのは、ジャズフォーラム誌の2002年3月号が恐らく初めてだろうから、そういうことからしても、産声をあげたばかりの新人と言えるだろう。

 スワヴォミール(短縮形はスワヴェク)・ヤスクーケ。この長髪で、鼻にもピアスをした、本当にこの人、ジャズミュージシャンかいな?というような出で立ちで、ジャズフォーラム誌に載った写真を始めてみた時は、クラブ系か、フュージョンでもやるのだろうと思っていた。

 ポローニア・レコードから唯一のリーダー作「クワイエット・シティー」(GRPO045)を発表したテナーサックス奏者、ヴォイチェッフ・スタロニェヴィッチが主宰する新興レーベル「アレグロ」から、ヤスクーケは初のリーダー作を2002年春にリリースした。この若者は、1979年生まれというから、リリース時はまだ23歳という若さである。彼は、プーツクという、普通の地図にはなかなか載っていない、バルト海沿岸の古い漁師街出身のピアニストである。ポーランド北部には、グダンスクという大都市があるが、それよりもさらに北岸に位置する街である。彼は、グダンスクやカトヴィチェの音楽学校で学んだというが、そう簡単にはかたちに収まらないぞ!という意気込みさえ感じさせる破天荒なエネルギーは、バルト海から吹きつける北風をもふっ飛ばさんばかりである。

 曲はオリジナルばかり、しかも、メロディーをゆったり歌うというよりは、勢いが勝負という感じがアルバム全体を占めている。まずは、1曲目。何か他のことをしながら聴いていても、後半部分のテンションの高さは尋常ではないことに気づく。8分30秒ぐらいから、それまででも凄まじかったのに、さらにその上を行くパッションの噴出。この火山が噴火するようなエネルギーはどこから来るのだろう!???まさしく、ターボ・エンジン、フル稼働である。

演奏は、1,2曲目がピアノ・トリオによるもの、3,4,5曲目が今や中堅のテナーサックス奏者となったマチェイ・シカワを迎えての演奏となっている。敢えていうなら、3曲目のバラードが、落ち着いていて、ちょっとメロディアスな曲想となっている。ただ、他の4,5曲目でもそうだが、シカワの音色はどこか乾いていて、感情を朗々とみなさんにご披露するというよりは、揺れ動くリズムの中で、さりげなく表情を崩してみせるといったように、どこかクールで、それがアルバム全体の統一感にも役立っているような気がする。1や5のリズムの呼応のさせ方などは、クシシュトフ・コメダのアスティグマティックなど後期の曲に影響がみられる気もしないでもない。

ヤスクーケの影響を受けたピアニストは、ハービー・ハンコック、マッコイ・タイナーであるという。また、インスピレーションを与えられる音楽家としては、バルトーク、ヒンデミット、ラフマニノフらクラシックの作曲家を挙げている。 この若き才能が、今後、どのように成長していくのか、遥か遠方の国からであるが、見守っていきたい。
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【曲目】
1. 現実は分かっているのだが
Reality Known
2. 僕はこう思う
In My Opinion
3. オータム・ギフト
Autumn Gifts
4.プラティノ
Platino
5.ネバーグリーン
Nevergreen

メンバー:スワヴェク・ヤスクーケ(p)
ピョートル・レマンチク(b)
トメク・ソヴィンスキ(ds)
マチェイ・シカワ(ts)(3,4,5参加)
録音:2001年7月1日ポーランド・グジニア・ジャズ・フェスにてライヴ録音
発売元:アレグロ
輸入販売元:ガッツプロダクション


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