女性ヴォーカル万歳特集 アグネスカ・スクシペク特集
アグネスカ・スクシペク特集
今、みなさんが手にされているCDは、ポーランドはクラクフ、そこに居を構えるジャズ・レーベル、ノット・トゥー・レコード(Not Two Records)からリリースされた女性ヴォーカルの作品だ。録音は昨年2001年9月にされたばかりで、ホヤホヤの最新盤である。
さて、このノット・トゥーは、ガッツプロダクション同様、マレク・ヴィニャルスキという初老の男性によって一人で運営されている。うちもマイナーなら、ノット・トゥーもマイナーなのである。ジャズ博士、杉田宏樹さんの著書で、この2月に刊行されたばかりの「ヨーロッパのJAZZレーベル」(今を知る個性派ベスト56)で、ポーランドの2レーベルが紹介されている。ポローニア・レコードとこのノット・トゥーである。その中で、澤野商会の成功を例に、ネーム・バリューというセールスの拠り所となる価値観を完全に切り崩した、とある。「無名イコール価値がない」。僕自身そういう考え方が全く嫌で、マイナーであっても、「メジャーを凌駕するような宝石」があるし、ピアノ・トリオに関わらず、そういうアーティストの、そういう作品に光を当てられれば、と思っている。

さて、機を同じくして送られてきたのが、このアグネスカのCDだった。まだ、ジャケットも何も出来ておらず、CD-Rと参加ミュージシャンの名前の羅列が表記されているだけだった。実は、レコード会社をやっていて、このまだ何も始まっていない状態が結構楽しかったりする。これからどう転ぶか分からず、競馬で言うと、穴ねらいのボックス買いというところだろうか。プレーヤーのトレーにCD-Rを載せ、スタートボタンを押す。演奏時間の表示盤に0:00が出るまでの数秒間、なぜか緊張する。

アグネスカ、全然彼女のことは知らなかった。Not Twoによると、結構向こうではベテランのようだが、これが彼女の初CD。歌声に張りがある。ちょっとハスキーなところもセクシーだ。正統派の女性ヴォーカル。そういう彼女を盛り立てるのが、まだ若手のピアニスト、ミハウ・トカイ。ピアノ・トリオ作品を彼で一度はつくってみたい人である。イェジー・マウェク「バイ・ファイヴ」(GRNT720)でも歯切れのいい好演をしている。そして、ベースには「トラベリング・バーズ・クインテット」の実力派、ダレク・オレシュキェヴィッチ、ドラムのウカシュ・ジタも若手で、中堅のベーシスト、アダム・コヴァレフスキを中心としたピアノ・トリオで最近は活躍している人だ。そして、テナーを吹いているのがトーマス・シュカルスキ。ベテランだ。フィンランドの前衛ジャズ界の奇才でドラマー、エドワルド・ヴェサラと70年代に共演していたこともある人で、ここでメロディアスなプレーを聴かせていることは驚きである。でも、当時のエネルギーは失われることはなく、未だに感極まって暴発してしまう。この感情の吐露がいい。ベテランになっても、ハングリー精神旺盛なのだ。特に、7曲目「ネバー・セド/トラスト・ミー」。静かにピアノの伴奏で彼女の歌が始まり、だんだんとテンションが上っていく。メロディアスでスローないい歌だ。それに次いで出てくるトカイのリリカルなピアノ。「ネバー・セド」と「トラスト・ミー」の掛け橋を担うのが、シュカルスキのテナー。「私を信じて。恐れることはないわ。心を開いて…」そう言われて、心を開くのが彼のテナーなのだ。グッと押してくる。その押し方がなんとも気持ちがいい。10数分の演奏なのだが、その中でひとつのドラマが作られている。ぜひ聴いてもらいたい1曲である。他にも、「ワルツ・フォー・デビー」、「あなたと夜と音楽と」「ポルカ・ドッツ・アンド・ムーンビームズ」等スタンダード曲を収録。
(文責=ガッツプロダクション 笠井 隆)
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マイララバイ
【曲目】
1. トゥ・シー・ザ・ワールド
To See a World
2. ワルツ・フォー・デビー
Waltz for Debby
3. アイヴ・ガット・ザ・ワールド・オン・ア・ストリング
I've Got the World on a String
4. マイ・ララバイ
My Lullaby
5. あなたと夜と音楽と
You and the Night and the Music
6. アイ・プット・ア・スペル・オン・ユー
I Put a Spell on You
7. ネヴァー・セド/トラスト・ミー
Never Said(Chan's Song)/Trust Me
8. スティル・ウィ・ドリーム
Still We Dream(Ugly Beauty)
9. アイ・ヒア・ミュージック
I Hear Music
10. ポルカ・ドッツ・アンド・ムーンビームス

Polka Dots and Moonbeams
Michal Tokaj-p, Darek Oleszkiewicz-b, Lukasz Zyta-dr. All arrangements by Michal Tokaj, except #10 by Darek Oleszkiewicz.
Recorded at M1 Sudio Warsaw, September 2,3,4 - 2001. Recorded, mixed and mastered by Tadeusz Mieczkowski.


メンバー:アグネスカ・スクシペク(vo)
トーマス・シュカルスキ(ts)
ミハウ・トカイ(p)
ダレク・オレシュキェヴィッチ(b)
ルカシュ・ジタ(dr)
アレンジ:ミハウ・トカイ
(10.のみダレク・オレシュキェヴィッチ)
録音:2001年9月2,3,4日
発売元:NOT TWO RECORDS
日本国内販売元:ガッツプロダクション


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