イルセ・ヒュイツィンガー特集
イルセ・ヒュイツィンガー特集/杉田 宏樹

 今夏『ヴォイセズ・ウィズイン』で日本デビューを果たしたオランダの女性ヴォーカリスト、イルセ・ヒュイツィンガーが、早くも同第2弾となる新作『ブロードウェーを越えて』をリリースする。前作が1999年発表の第2作であったのに対して、本アルバムは2005年2 月録音の正真正銘のニュー・アルバムだ。イルセについてのプロフィールは前作のライナーノーツに詳しいので、ぜひそちらを参照してほしい。その後イルセへのインタビューが成功し、新しい情報を得られたので、ここでは彼女の言葉で自分自身を紹介してもらうことにしよう。

 「私は10代から歌とピアノのレッスンを受けていて、大学を卒業し、アムステルダムの有名なクラブ"カサブランカ"でボーカル・ジャム・セッションに参加する中で、プロのジャズ・ボーカリストになることを決意し、アムステルダム音楽院で正式に学びました。私を最初にジャズに導いた曲が「ミスティ」。毎週図書館に通ってエラ、サラ、アビー・リンカーンなど宝物を聴きあさったわ。シャーリー・ホーン、カーメン・マクレエ、ベティ・カーター、シナトラ、メル・トーメも大好きよ。『ヴォイセズ・ウィズイン』で多くのレパートリーを取り上げたビル・エヴァンスは、私にとって偉大な創造の源であり、リリカルな作曲家/ピアニスト。とりわけ<ワルツ・フォー・デビー>は地上で最も魅惑的なメロディだと思う。歌詞はとても知恵深く、感動的。私には5歳の娘エレンがいるので、曲に共感できるの」。

 本アルバムは多重録音を駆使して1人コーラス・グループを演じた前作とは異なり、ピアノ・トリオ+サックスをバックに有名曲を歌ったものだ。「アルバム・コンセプトはブロードウェイのナンバーやオペラ、ミュージカルや映画音楽のコレクション。『ポーギーとベス』や『マイ・フェア・レディ』の絶えず心に浮かぶメロディにずっと特別な思いを抱いていて、それらの歌を現代的なものに変身させたいと思った。ピアニストでプロデューサーのエリック・ヴァン・デル・リュイートはこの10年間公私共に私の重要なパートナー。彼はオリジナル・バージョンを大切に扱いながら、楽曲をまばゆいばかりの刺激的な方法でアレンジする、類稀な才能の持ち主です。私は自分自身をブロードウェイとアメリカン・ソングブックを解釈することに、特別な興味を持っているシンガーだと思います。選曲にあたっては、歌詞がストーリーを語る媒体として、真に意味あるものになることを考えて取り組んでいるの」。

 プログラムはジョージ・ガーシュインの傑作フォーク・オペラからの「アイ・ラヴズ・ユー・ポーギー」で幕を開ける。イルセのくだけた表情に親近感が湧く「素敵でしょ?」、定石のバラードではなくボサノヴァ・タッチにアレンジした「見守ってほしいのに」、歌詞の歌い回しに女優魂にも似たセンスが感じられる「私にはないものばかり」、3分足らずの時間に1つのドラマを完結させた「グッドバイ」、シビル・シェパードが取り上げてヴォーカル・ファンに好まれるようになった名曲を、キャバレー・シンガー風に歌い上げる「あの坊やに首ったけ」、ピアノの内声に手を加えて現代的なセンスを表現した「あなたが住みストリート」、男性リスナーに対するアピール度が高そうな「踊り明かして」、ヴァースから入って楽曲の陰と陽をきっちりと映し出す「目を閉じて」、意表を突いたバラードでしっとりと聴かせるのが新鮮な「あなたと夜と音楽と」、コルトレーンで有名なバラードをボサ・タッチに仕立てた「さよならする時はいつも」。そしてラストはリー・ワイリーでお馴染みの「マンハッタン」を現代的に聴かせ、アルバム名通りのコンセプトを主張する。インタビューの最後にイルセはこのように話した。「私の音楽を喜んで受け入れてくれてありがとうございます。日本に行って私の歌を聴いてほしいと思っています。早くみなさんに会いたいわ!」。イルセが本格的にブレイクするのはもうすぐだ。
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ブロードウェイを越えて
こちらから動画をご覧いただけます
【曲目】
1. アイ・ラヴ・ユー、ポギー
2. 素敵でしょ?
3. 見守ってほしいのに
4. 私にはないものばかり
5. グッドバイ
6. あの坊やに首ったけ
7. あなたが住むストリート
8. 踊り明かして
9. 目を閉じて
10. あなたと夜と音楽と
11. さよならする時はいつも
12. マンハッタン

メンバー:
イルセ・ヒュイツィンガー(voc)
エリック・ヴァン・デル・リュイート(p)
ブランコ・トイヴェン(b)
ヴィクトル・デ・ブー(ds)
エンノ・スパーンデルマン(sax)

録音:
2005年2月17日、18日
オランダ・アメルスフォールトにて
スタジオ録音


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